ふと夜中に目が覚めた。



天井を見ていた目線はそのままで、
バッシュはぼやけた感覚の中いつものように横へと腕を伸ばした。

だが、冷たいシーツの上には求めていたものはなく。

「1人・・・か・・・」

そう呟いてベッドの外へと出てしまった掌を軽く握った。







either way









出掛ける準備を整え歩き出したが、いまいち振り払えない違和感。




寝れなかった訳ではない。
淋しいという感覚とも違う。


今までこんな風になったことがあっただろうか・・。
あんなに1人で居る事に慣れていた筈なのに。



「参ったな・・」


小さな独り言に溜息が混じってしまい近くにいたアーシェがバッシュの顔を窺っていた。
顔を上げた時に重なった目線でようやく気づく。

「どうかしたの、バッシュ」

「いえ、何でも」

「そう・・ならいいのだけど。ちょっと珍しいなと思ったから気になって」

「・・・?」

「だって貴方から“参った”なんて言葉、聞いた事がなかったから」

「――!!」

考えていた事が相手に知られてしまった訳でもないのに動揺している自分。
続く言葉が見つからず訪れた束の間の沈黙―







「羨ましいって、、思う」



小さくそう言ったアーシェ。




「・・・・陛下、申し訳ありません。。。」

「どうして謝るの?」

「このような状況であるにも係わらず自分は―」

「謝るのはやめて。それこそおかしいわ!」

「・・・・」

少し気まずそうに目線を落としたアーシェ。

「ごめんなさい、でも悪い事なんかじゃない」


前に歩いて空を見上げた陛下の横顔。
少し淋しそうで。どこか困ったような表情で―


「誰かを好きになる事を止める事はできるものなのかしら・・・」

「。。。。。。。」

振り向いたアーシェがバッシュの顔を見つめる。

「もし私が、さんを想う事をやめろって言ったら貴方ならやめられる?」

「それは。。。。」

問うたのが殿下でなければ即答しているだろう。“無理な事だ”と―

だが・・・。



「すぐに答えを口にしないのは自分の中でもう決まっているからなんでしょ?」

「・・・・・・・・・」

「誤魔化そうともしないのに、変に相手を気遣うからよ」

呆れたようにクスっと笑ったアーシェ。

「護ってあげて。大切なものは一つだけじゃないのだから」

「はい・・・・・」


平原に流れる風が頬をそっと撫でる。

隣にいないだけできっともこの空の下にいるのだろう。

そう考えればさっきより少しは気持ちが落ち着く気がする。

会えないから会いたくなるのに、
傍にいれば当たり前のように感じてしまう。

単純で楽観的だ。

だからこそ思うのは、の笑顔を見て安心してその体を強く抱きしめたいという事。








「あの、一つ聞いていいかしら?」

「はい」

さんのどこが好き?」

「!?・・・・それは」

「またすぐに答えない。。。分かっているんでしょう?」

「・・・・いえ、それが」

「まさかとは思うけど、、、、“全部”なんて答えないでしょうね・・・・・」

頭を抱えたアーシェからは大きな溜息が漏れる。

「呆れた・・・・」


隠そうとしても見透かされ、答えようとすれば呆れられる。
明瞭に表情として出てしまうほど誰かを好きになっている自分を再認識した。



「本当に参ったな・・・・・」